最近、ファスト映画関連の動画チャンネルが次々に閉鎖されていっています。
この背景としては、ファスト映画制作者の摘発、逮捕のニュースが大々的に取り上げられるようになってきたことがあげられると思います。
非合法的なコンテンツに関しては、もちろん今後も取り締まられていくと思いますが、短い時間で映画の内容を把握する、という需要があるという事も明らかになったので、合法的なファスト映画というのも今後出てくるかもしれません。
いずれにしても、使用する映画の権利者に許諾が必要なコンテンツだと思いますので、今回はファスト映画コンテンツのどの点が著作権的に問題なのか、という事を解説したいと思います。
※なお、ファスト映画にはいわゆる「ネタバレ」という要素も含まれますが、「ネタバレ」が良いか悪いかという問題については、モラルやマナーの範疇の部分が大きいですから、割愛させて頂きます。
ファスト映画とは?
問題点の解説の前に、ファスト映画がそもそも何なのかおさらいしておきましょう。
ファスト映画とは、映画の権利者に無断で、映画の映像や静止画を使用し、字幕やナレーションをつけて映画のストーリーほぼ全てを紹介する短時間の動画のことを言います。
映画だけに限らず、TVや配信で提供されているドラマ・アニメ等を使った類似の動画についても、「ファスト映画」に分類されることもあります。
箇条書きでポイントを整理しておきましょう。
1.短めの動画である
2.作品の権利者に無断で映像や静止画を使用している
3.独自の字幕やナレーションをつけて、映画のストーリーを紹介している
4.全編のストーリーを紹介する目的で作られている
人によっていろいろな解釈があろうかと思いますが、主にこの4つの特徴を前提にして、どの点が問題なのかを解説していきたいと思います。
ちなみに、使用する素材がそもそも著作物にあたらない場合は、著作権侵害にはなりません。
どういったものが著作物として定義されているのか、気になる方はこちらの記事もご覧ください。
引用とは?
解説する上で、もう一つだけ前提知識が必要の為、紹介させて頂きます。
※もう知ってるよ!という方は読み飛ばして頂いて構いません。
それは「引用」です。
「本の要約動画などは取り締まられていないのに、ファスト映画だけ取り締まられるのはおかしい。そもそも引用の範疇だから問題ないのでは」という意見がたまに見られます。
そこで、著作権法上の「引用」は、どのように定義されているかを紹介させて頂きます。
著作権法上の引用とは
著作物の一部だけを参考として掲載する場合で、以下の条件を満たしている場合は、”引用”にあたり、著作権侵害にはあたりません。
(1) 公表された著作物であること
(2) 公正な慣行に合致すること
(3) 目的上正当な範囲で行われること
(1)公表された著作物であること
(2)や(3)の条件を満たしていても、公表されていない著作物(まだ出版されていない本の一節を引用する場合など)は、“引用”とみなされないため、注意が必要です。
(2)公正な慣行に合致すること
この条件の表現はかなり曖昧なのですが、「出典元の明記(「~~~より引用」などを明記する事)」や、「内容を改変しないこと」は、この条件に含まれるとされ、抑えておいたほうが良いポイントです。
(3) 目的上正当な範囲で行われること
この条件も複数の要素に分かれます。
他の人が見たときに、どこからが引用で、どこからがそうでないか、を区別できるようにする必要があります。(明瞭区分性)
例えば、引用部分だけを””で囲む、引用部分だけを斜体にする、などの方法が挙げられます。
また、引用する必要性、という条件も満たさなければなりません。(必然性)
例えば、小説で出てきた一文について感想を述べたい場合に、その一文を引用する必要性はありますが、挿絵まで引用する必要があるかといわれると微妙ですので、挿絵を載せた場合は引用として認められない可能性があります。
また、引用と認められるためには、本文がメイン、引用元がサブ、の位置づけにならなければなりません。(主従関係)
たとえば、作品の感想や解説を行う動画で、引用元の著作物が占める割合が、その感想や解説に比べて多い場合、引用元がメインで本文がサブという風に見えてしまうため、引用とみなされません。
著作権的な問題点解説
「ファスト映画」の特徴、「引用」の定義も分かったところで、ファスト映画の特徴ごとに、どの点が著作権侵害にあたるかを見ていきます。
1.短めの動画である
こちらの特徴はファスト映画の「ファスト」たるゆえんですが、単に短い動画だからと言って、著作権的な問題は発生しません。いったんこの項目は関係ないものとして無視します。
2.作品の権利者に無断で映像や静止画を使用している
こちらは、基本的に著作権侵害になります。
権利者に直接許可を得たり、公式に「使用してよい」と銘打たれている素材なら使用しても問題ありませんが、それ以外のものについては、許可を得なければ著作権侵害になってしまいます。
「引用」における「必然性」があれば、著作権侵害にならないこともありますが、様々なシーンの映像や画像がないと、どうしても批評や感想が述べられないというケースは稀でしょうし、コンテンツの大半が無断使用の映像や静止画となると、「主従関係」が崩れてしまいますから、ファスト映画で映像や静止画をふんだんに使うことを「引用」の範疇に収めるのは相当に条件が厳しいと考えるべきでしょう。
3.独自の字幕やナレーションをつけて、映画のストーリーを紹介している
こちらについては、著作権侵害になるケースと、ならないケースがあります。
「映画のストーリーを紹介する」「ある一部のセリフのみを使用」するのは、動画制作者が、作品の批評や感想を行うために、補足として入れる分には、「引用」の「必然性」の範疇に含まれますので、問題ないでしょう。
問題があるケースとしては、「セリフ全文を紹介」「事細かにストーリーをトレース」するような場合です。
これは「引用」の「必然性」や「主従関係」の範疇を超えてしまいますから、著作権侵害になる可能性が高いです。
ちなみに、「独自の字幕やナレーション」に関しては、ファスト映画が著作権侵害をしているかどうかに関係なく、「独自の字幕やナレーション」を考えた制作者の著作権が認められる可能性があります。
4.全編のストーリーを紹介する目的で作られている
こちらも著作権侵害にあたります。
「動画制作者が批評や感想、解説を述べるために、一部のストーリーを紹介する」のは引用が認められる可能性が非常に高いです。
しかし、ファスト映画は、そもそも批評や感想を述べるために作られたものではありませんから、「引用」における「主従関係」の範疇には収まらず、やはり著作権侵害にあたる可能性が高いでしょう。
「歌ってみた」「弾いてみた」との違い
ファスト映画は問題ない派の方の意見に、「『歌ってみた』『弾いてみた』が許されているから、ファスト映画も問題ない」というものがあります。
しかし、著作権の観点からみると、「歌ってみた」「弾いてみた」とは明確に異なる点があります。
そちらも見ていきましょう。
「歌ってみた」「弾いてみた」は、権利者許可のもと行われている
音楽の著作権関しては、他の著作物よりも、JASRACやNexToneなどの著作権管理団体による管理が積極的に行われています。
レコード会社等からリリースされる商用楽曲のほとんどは、音楽著作権管理団体に「信託」されています。
「信託」することによって、著作権管理団体が、権利者に代わって、作品の利用の許諾業務や、使用料の徴収業務を行い、徴収された使用料が権利者に分配される仕組みが出来上がっています。
その仕組みの中では、著作権管理団体と、音楽の利用者が契約することにより、利用者が使用料を払うことにより、音楽の利用が許諾される、という事が行われています。
Youtube等のプラットフォームが、ユーザーがプラットフォーム上で音楽を利用することについて、音楽著作権管理団体と契約しているため、「歌ってみた」「弾いてみた」などは、間接的ではありますが権利者の許可のもと行われているのです。
一方、映画などの映像作品に関しては、ここまでの規模の集中管理は行われておらず、許可を得ようとすると、使用したい作品の権利者に直接許可を取らなければなりません。
Youtube等も、映像作品の権利者すべてに許可を取っていくようなことは行っていませんから、ユーザーが直接権利者に許可を取る必要があります。
このように映像作品と音楽作品では、使用許可に関する状況は全く異なっているため、「歌ってみた」「弾いてみた」を引き合いに出してファスト映画の正当性を主張するのは難しいと言えるでしょう。
「歌ってみた」「弾いてみた」でも全てが許されているわけではない
さらに、音楽であればどのような利用方法でも使用してかまわない、というわけではなく、注意しなければならない点もあります。
代表的なものは、いわゆる「原盤権」についてで、こちらに関しては著作権管理団体に「信託」されていないため、市販されているCDや配信されている音源の音をそのまま使ったりする場合は、やはり権利者に直接許可を得る必要があります。
こちらの話題が気になった方は、以下の記事もご覧頂ければと思います。
まとめ、所感
ファスト映画の特徴別に、どの点が著作権侵害にあたるかを解説してみました。
ファスト映画の内容は、基本的に「引用」にはあたらず、これをアップロードする行為は著作権侵害とみて間違いないでしょう。
度重なる取り締まり報道の萎縮効果により、ファスト映画のチャンネルが次々に閉鎖されています。
同時に、映画の内容を短時間で掴みたい、というニーズが高まりつつあるという事も世間に認識されました。
非合法のファスト映画については、引き続き取り締まられるべきですが、並行して合法的なファスト映画を配信する方法を模索していくことで、新しい文化の盛り上がりや、ビジネスチャンスも発生してくるのではと感じております。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
※記載の情報は記事投稿時点でのものであり、今後変更になる可能性があります。
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