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【解説】職務著作とは?東京オリンピック開会式のゲーム音楽使用、作曲者の許可は不要?

東京オリンピックの開会式の入場行進音楽として、日本のゲーム音楽が採用されました。

この演出には驚かれた方も多く、大変な話題になりました。

賛否両論も巻き起こりましたが、使用された楽曲の作曲家が、使用されることを事前に知らされていなかったことで、「著作権侵害では?」という声も一部で上がりました。

結果的には、「知らされていなかった」事は事実で、「著作権侵害」というのは間違いでした。

そのことは、使用された楽曲のうちの1曲、エースコンバット5「First Flight」の作曲家、小林啓樹さんも指摘されています。

今回の件について、作曲家に無断で曲を使用しても、著作権侵害にならないのか?という問いへのアンサーは、上記2件の小林さんのツイートで全て説明されています。

蛇足になってしまうかもしれませんが、もう少し深く状況を知りたいという方のために、作曲家に直接利用許可を取る必要が無いケースについて、解説したいと思います。

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ケース1:職務著作

今回の小林さんのケースは、こちらに当たると思われます。

職務著作(法人著作)とは

会社の従業員が、その仕事に関連して創作した著作物は、会社のものになります。

この概念のことを、「職務著作」または「法人著作」と呼びます。

就業規則や雇用契約にこのことが明記されている会社もありますが、特に明記されていない場合でも、職務著作については著作権法で規定されていますから、このルールが適用されると考えたほうが良いでしょう。

したがって、ゲーム会社の従業員が、その会社が開発したゲームソフトのために作曲した曲、という事であれば、すべての権利は会社にありますから、使用許諾を出せるのは、作曲家ではなく、そのゲーム会社という事になります。

なお、逆に「業務上創作した著作物であっても、その権利は従業員に属する」という方針の会社もあるようです。その場合は、就業規則などにそのことが明記されていれば、従業員が権利を保有することになります。

補足

職務著作については、従業員ではなく最初から会社のものになりますので、「著作者人格権」も会社のものになります。

仕事は著作物であふれている

「仕事で著作物を作る事なんかないから、自分には関係ないよ」と思っている方、ちょっと待ってください。

曲や絵画など、いかにも「著作物」というもの以外にも、例えば、販促用のPOPや、プレゼン資料なども著作物にあたります。

これらを日常的に制作している方も多いのではないでしょうか。

身近なところで、職務著作は日々発生しているのです。

他の会社に制作を委託した場合は?

A社の製品の販促ポスターの制作を、B社に発注したとします。

B社の従業員であるCさんが、販促ポスターを制作しました。

このように制作業務を発注することは、よくあるパターンだと思いますが、この場合、CさんはB社の従業員ですから、A社には著作権が発生せず、B社に著作権が発生するのです。

これでは、ポスターの増産などの度に、A社はB社に許諾を取らなければなりませんから、実務上大変不便です。

そこで、このような場合は、業務委託契約などの中に、「この業務で発生した著作物の著作権はA社に帰属する」という趣旨の条項を盛り込むという事がよく行われているのです。

補足

契約の中で、単に「著作権を全て譲渡する」と記載しても、以下の権利は譲渡されたとみなされません。

  1. 翻訳権・翻案権(著作権法27条)
  2. 二次的著作物の利用に関する権利(著作権法28条)
  3. 著作者人格権

そこで、1.2.については、「著作権法第27条及び第28条に規定されている権利を含む」と明記し、3.についてはそもそも譲渡できませんから、「著作者人格権を行使しない」という事を明記する場合がほとんどです。

業務時間外に作業した場合は?

良いか悪いかは置いておいて、休憩時間に仕事をしたり、サービス残業をしてしまったり、家に仕事を持ち帰ってしまうケースもあるかと思います。

このような状況で創作された著作物の権利はどうなるのでしょうか。

実は、職務著作が成立する条件としては、業務時間か否かは関係ないため、業務に関連する著作物であれば、やはり会社のものになります。

逆に、こちらも良いか悪いかは置いておいて、会社支給のスマホを使って、業務時間内に、SNSの個人アカウントで、出張先で立ち寄った観光名所の写真をアップしたりしたらどうでしょうか。

この場合は、業務に関連する著作物ではないため、就業時間内であるか、会社の備品を使ったものであるかは関係なく、会社のものにはなりません

繰り返しますが、良いか悪いかは置いておいて、あくまで誰の著作物になるか、という点に絞った解説になります。

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ケース2:著作権管理団体への信託・委託

開会式で使われたゲーム音楽にも、一部このケースがあると思われます。

著作権管理団体とは

著作権管理団体とは、著作権者に代わって、その利用許諾や、使用料の徴収、そして徴収した利用料を、著作権者に分配する業務を行っている団体です。

特に音楽の分野に関しては、JASRACやNexToneが有名で、大部分の商用音楽がこの2社によって管理されています。

ちなみに、ゲーム音楽については、著作権管理団体によって管理されるケースが他の分野の音楽に比べて少ないです。少し話が長くなってしまいますので、この経緯はまた別の機会に。

2021/7/29追記

Twitterでご指摘受けましたので、著作権管理団体についての説明の表現を少し変えています。

許諾は権利者本人ではなく著作権管理団体が行う

JASRACやNexToneがなぜか悪の権化のように語られることもあるのですが、その利用者である作曲家などの権利者としては、メリットがあるから著作権管理団体を利用しているわけです。

権利者が著作権管理団体を利用するメリットとしては、以下のような著作物の利用許諾に関わる手間を無くせることが挙げられます。

著作物の利用許諾に関わる手間
  • 著作物を利用したい人との連絡
  • 使用料の交渉、契約
  • 使用料を請求、入金管理

人気曲ともなれば、「許諾に関わる業務」をこなすだけで1日が終わってしまいます。

作曲家がこのようなことを行っていたら、曲を作る時間が無くなってしまいます。

かといって、許諾に関わる業務が無ければ、無断利用が横行し、使用料が徴収できず作曲家の収入が無くなってしまう可能性が非常に高いでしょう。

「許諾業務」は「必要」ですが、「手間」なので、権利者の代わりに著作権管理団体が行っています。

権利者にとって必要だから、JASRACやNexToneが存在しているわけですね。

その他:著作隣接権について

なお、俗に言う「原盤」を使用する場合は、「著作隣接権」についても許諾が必要です。

著作隣接権については、以下でその内容を紹介しています。

まとめ

東京オリンピックの開会式でゲーム音楽が使用されたことがきっかけで話題になった、作曲家に直接利用許可を取る必要が無い場合がある、という事について、以下のケースを解説しました。

今回解説したケース
  • 職務著作
  • 著作権管理団体への信託・委託

ネット上の意見や情報は様々ですが、本当に有用な情報を見つけ出す参考になれば幸いです。

※以上は本記事の配信時点の調査情報です。以後情報が変わる可能性があること、ご了承ください。

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