2021年9月に、デジタル監の石倉洋子さんの公式サイトで、PIXTAなどのサンプル画像が使用されるという著作権侵害行為について、話題になりました。
権利者からライセンスを取得していない状態で「公衆送信」や「複製」を行ったことが問題なのですが、実はこのような行為はデジタル庁のみならず、パワーポイント等を使った会社のプレゼン資料作成においても、広く日常的に行われている可能性があります。
Googleの画像検索でちょうどよい写真やイラストがあったから、会社で使う企画書やプレゼン資料に張り付けて使用したことがある、という方は結構多いんじゃないでしょうか。
ダウンロードして資料で使用する行為が「複製」、紙面の都合上、必要な部分を切り取ったり、アスペクト比を変えて表示したりする行為が「改変」に当たる可能性がありますし、リモートWeb会議が当たり前になった最近では、「公衆送信」も頻繁に行われる可能性があります。
プレゼン資料作成において、画像などの著作物を扱うことの多い人にとっては、かなり身近な著作権に関する問題です。
「社内でしか使わないからOK」
「プレゼンで直接お金を取っているわけではないから営利利用にあたらない」
と思っている方や、
「“いらすとや”なら使ってよいと聞いたけど、資料の雰囲気に合わないから仕方なくGoogle画像検索で拾ってきた画像を使っている」
という方は、本記事がお役に立てると思いますので、ぜひご覧ください。
画像、写真の著作権
著作権、著作物とは
著作権とは、短くまとめると、「“著作物”を創作した”著作者”に対して与えられる権利」です。
著作権が発生するためには、そもそも「著作物」を創作しなければなりませんので、著作権を理解する上で著作”物”とは何なのか理解することが大変重要です。
著作物の定義は、以下のように定められています。
「①思想または感情」を「②創作的」に「③表現したもの」であって、「④文芸、学術、美術または音楽の範囲に属する」もの
この定義ですが、いったん消去法で考えると分かりやすいです。
①思想または感情
思想や感情が混じらない、事実や統計などの単なる事実は除外。
②創作的
ありふれた表現でないこと。例えば「私はあなたを愛している」というフレーズには、感情が含まれていますが、誰もが使う可能性のある表現であり、創作性はありません。
③表現したもの
頭の中にだけにあり、客観的に確認できないものは含まれません。
④文芸、学術、美術または音楽の範囲に属する
工業製品などが除かれます。
作品が生まれた瞬間に著作権が発生(無方式主義)
著作権は、「無方式主義」といって、特にどこかの機関に申請や登録などしなくても、著作物が産まれた瞬間に発生します。
望もうが望むまいが、そういう概念になっているので、身の回りは著作権だらけです。
例えば、幼稚園児が書いた落書きなどに関しても、著作権が発生するので、その幼稚園児に無断でその絵を使う事は、本来できません。
画像や写真は著作物か?
上記を踏まえると、画像、写真等は著作物と言えるでしょう。写真を撮った人や、イラストを描いた人が著作者という事になります。
ただし、著作者=著作権者(使用許可を出せる人)とは限らないことに注意です。
著作者が著作権を誰かに譲渡していれば、譲渡された人が著作権者になりますし、著作権者が販売委託契約をしている場合などは、利用者との窓口は販売委託先となります。
支分権、著作権侵害
著作権者は、具体的にどのような権利を持っているのでしょう?
その質問に答えるには、「支分権」について説明する必要があります。
「支分権」とは、著作権者がその作品に対して独占的にできる行為ごとに存在する権利で、著作権の中身そのものです。
「独占的にできる」という事は、支分権に存在する行為は、権利者以外の人は禁止されていることになります。言い換えると「勝手に〇〇されない権利」とも言う事が出来るでしょう。
代表的なものを列挙すると、
- 複製権
勝手に複製(コピー)されない権利 - 上演権
勝手に上演(台本などをもとに演技など)されない権利 - 口述権
勝手に口述(公衆に向けて小説の内容を読み上げるなど)されない行為 - 演奏権
勝手に演奏(CDや音楽データの再生含む)されない権利 - 上映権
勝手に上映(映画館やTVモニター等での映像上映など)されない権利 - 公衆送信権
勝手に公衆送信(インターネット上にアップロードする等)されない権利 - 展示権
絵画などを勝手に展示されない権利 - 頒布権
勝手に頒布(販売、貸与等も含む)されない権利 <映画の著作物用> - 譲渡権
勝手に譲渡(販売等も含む)されない権利 <映画の著作物以外用> - 貸与権
勝手に貸与されない権利 <映画の著作物以外用> - 翻案権
勝手に翻案(改変)されない権利
などがあります。
これらの権利を著作権者は持っていますから(一部譲渡の場合は譲渡された権利のみ)、もし勝手に上記の行為を行った場合、著作権侵害となります。著作権者はそれを差し止めたり、経済的・精神的・名誉的に損害があった場合は、侵害者に損害賠償を請求することもできます。
また、著作権侵害の刑罰は罰金だけでなく懲役の可能性もあり、決して軽い罪ではありません。
権利者の許可が必要ない場合(権利制限規定)
何をするにも権利者の許可を得なければなりませんよ、という事になると、とても不便な世の中になってしまいます。
そこで、権利者の許可を得なくても、著作物を利用できるケースが著作権法によって定められています(権利制限規定)。
様々なケースが決められているのですが、ここではプレゼン資料での画像使用で関わってきそうなものに関して紹介します。
私的使用のための複製
個人的に、または家庭内で楽しむために、著作物を複製(コピー)する行為については、権利者の許可が無くても行うことが可能です。
例えば、TV番組を録画(=複製)して家庭内でのみ鑑賞したりする行為がそれです。
ちなみに、インターネット上からデータをダウンロードする行為も複製の範疇です。
私的に楽しむ目的であれば、違法動画サイト等から動画をダウンロードして鑑賞しても問題ない・・・わけではなく、コピー元が違法なものと知りながらダウンロードする行為は違法と定められているので、注意して下さい。
私的使用として認められるのは
- 複製する人自身がその複製物を使用する目的の場合
- 家庭内、または家庭内に準じる限られた範囲で使用する目的の場合
を両方満たしている場合です。
例えば複製代行業者などのような業者に頼んでコピーしてもらった場合は、複製している人と使用する人が異なってしまっていますから、「複製する人自身がその複製物を使用する目的」の要件を外れてしまい、私的使用と認められません。
また、「家庭内に準じる限られた範囲」は、非常にあいまいな表現ですが、相当に強い人間関係が求められるとされています。少なくとも「知り合い」程度では認められないと思います。
また、人数も10名を超えてくると 「家庭内に準じる限られた範囲」 とは言い難くなってくるでしょう。
非営利目的での上映等
世の中に公表された著作物は、以下のすべてを満たす場合に、権利者の許可が無くても上演、演奏、上映、口述することが出来ます。
- 営利を目的とせず
- 聴衆・観衆から入場料その他の対価を徴収せず
- 実演家や口述者などに出演料などの報酬が支払われない場合
例えば、学校の文化祭で(利益を得ずに)行われる生徒による演奏会、演劇公演会などでは、権利者に許可を取らなくても演奏、上演をすることが出来ます。
ただし、営利企業が行う場合は入場無料でも営利目的とみなされるなど、条件は比較的厳しいです。ご興味があれば以下もご覧ください。
引用
著作権法上の”引用”にあたる場合は、権利者の許可が無くても著作物を利用することが出来ますが、引用する必然性が認められ、内容の改変が無いことなどの条件を満たしている必要があります。
事件や事故の現場写真など、必然性があるものであれば引用の条件に当てはまると思いますが、プレゼン資料にインパクトを持たせたり、雰囲気を作るような写真、イラストの挿入の場合は必然性があるとはいえず、引用に当たらない可能性が高いです。
検討の過程での利用
例えば、キャラクターグッズやキャラクターを使ったPRを行おうと考えている企業が、採用時には権利者に正式に許可を取る前提で、いくつかのキャラクターを比較・検討する場合に、そのキャラクターのイラストを企画書やプレゼン資料などに使うことは自然であり、権利者に不利益を与えることでもないため、権利者の許可が無くても画像やイラストを使用することが可能です。
ただ、こちらも単にプレゼン資料にインパクトを持たせたり、雰囲気を作るような写真、イラストの挿入の場合は、検討の過程での利用とは認めらないです。
会社で使用するプレゼン資料に制限規定は適用されるか
制限規定が適用される範囲であれば、Google検索で拾ってきた画像などであっても、特に権利者の許可が無くともプレゼン資料で使用することができ、著作権侵害にあたりません。
しかし、一般的に行われているような利用方法を想定した場合は、著作権侵害になる場合が多いと思います。
その理由を、大まかに以下の3つの行為について、支分権や制限規定の観点から解説いたします。
- 「複製」:画像やイラストをダウンロードし、プレゼン資料に張り付けるなどの行為
- 「上映」:プレゼンを行う際に画像やイラストを表示する行為
- 「公衆送信」:Web会議などでインターネットを介してプレゼン資料を表示したり、オンラインストレージを等を介して送信する行為
複製について
「私的使用」と認められば、画像やイラストをダウンロードし、プレゼン資料に張り付けるなどの行為もOKとなります。
ただ、社外向け資料はもちろんのこと、社内利用であっても、私的使用の要件である「家庭内に準じる限られた範囲」には当てはまらないため、 「私的使用」 が認められるケースはほぼ無いと言って良いでしょう。
したがって、ほとんどの場合、使用許可を得ていない画像や写真をプレゼン資料へ「複製」する行為はNGとなります。
上映について
プレゼン資料をモニター、プロジェクターに投影したり、Web会議で共有表示したりする行為は、「上映」にあたります。
「非営利目的」であればOKではありますが、社内メンバーや取引先へのプレゼン、無償で行うセミナーなど、直接的に利益をもたらさない行為についても、営利企業が行う場合は全て「営利目的」とみなされます。
したがって、使用許可を得ていない画像や写真を投影・表示する行為はNGとなります。
公衆送信について
Web会議などでインターネットを介してプレゼン資料を表示したり、オンラインストレージを等を介して送信する行為は、「公衆送信」にあたります。
公衆送信権に関する制限規定は、授業目的など特殊なものを除いて、汎用的なものは存在しませんので、基本的に上記のような行為を無許可で行うと公衆送信権侵害になります。
「公衆」が何を差しているかですが、「送信者から見て不特定または多数」のことを差します。
「不特定」や「多数」が具体的にどの範囲や人数なのかの明確な線引きはないのですが、以下判定例をまずはご覧ください。
- 家族や友人数名:
特定かつ少数=公衆ではない。 - たまたまその場に集まった数名:
不特定かつ少数=公衆。 - 家族や友人数10名:
特定かつ多数=公衆。 - たまたまその場に集まった数10名:
不特定かつ多数=公衆。
ポイントは特定かつ少数のパターン以外はすべて「公衆」にあたる事です。
もう一つのポイントとしては、「送信可能化」といって、実際には特定少数の人しかアクセスしなかったとしても、「不特定または多数の人がアクセス可能な状態」となっているのも、公衆送信に含まれるという事です。
したがって、メール等で特定少数のみに資料を送信する行為は公衆送信に含まれませんが、オンラインストレージにパスワード等も設定せずに資料を置いておくような行為は、たとえ特定少数向けに送信する目的であったとしても、公衆送信に含まれます。
相当に運用範囲を絞って資料を扱えば、公衆送信権侵害は避けられるかもしれませんが、昨今は簡単にデータの共有や配信が出来てしまうので、意図せず侵害してしまう可能性は高いです。
制限規定は適用されないと思ったほうが良い
会社でのプレゼン資料の作成、発表において、使用許可を得ていない画像や写真素材を使う事については、権利制限規定が適用されず、著作権侵害になる可能性が大変高いです。
結局は、権利者から使用許可が出ている素材を使う必要がある、という事になります。
無料サービスでもクオリティの高いものはある
プレゼン資料作成において、著作権侵害を避けるためには、権利者から使用許可が出ている素材を使う必要があります。
「いらすとや」も良いですが・・・
プレゼン資料などで使用してもよい、と明言されている素材配布サイトの有名どころとして、「いらすとや」があります。
プレゼン資料だけでなく町中のポスターやチラシなどでもよく見かけます。それだけ使用しやすい素材が揃っているという事ですね。
ただ、「かわいいフリー素材集」と銘打たれているだけあり、かわいいものが多いため、まじめな感じのプレゼン資料には向かない場合もあります。
Adobe Stockを推します
有料の素材ストックサービスのサブスクプランを使用すると、プレゼンなどで使用可能な、非常にクオリティの高い写真やイラストが手に入りますので、会社としていずれかのサイトと契約している場合もあるかと思います。
そのような場合は、会社指定のサイトを使用して頂くのが良いかと思いますが、会社の契約が無い場合はご自分で探すことになると思います。
しかし、数枚の写真やイラストを使用するためにサブスク契約し、経費申請するのは面倒なこともありますよね。(単品購入は結構な値段がしますし・・・)
そんな時に推したいのは無料素材でもクオリティの高いものが数多くあるAdobe Stockです。
サブスク会員登録すると、初月無料で10枚まで本来有料の素材も無料でライセンス取得できます。無料期間中に解約することも可能で、その場合は料金は発生しません。
また、サブスク会員登録しなくても、GoogleやFacebookのアカウントを使ってログインするだけで、「無料素材」については本当に無料でライセンス取得出来てしまいます。これからどうなるか分かりませんが、現状、無料素材だけでも事足りてしまうことが多いです。
かく言う私もAdobe Stockの無料素材ヘビーユーザーで、この記事で使用されている写真やイラストのほとんどがAdobe Stockの無料素材になります。
まとめ
画像検索などでダウンロードしてきた、使用許可がない写真やイラストを、会社のプレゼン資料で使用することは、ほとんどの場合NGです。
有料の素材ストックサービスと、会社が利用契約している場合はそちらを使うのが良いですが、無料でも品質の高い写真やイラストを配布しているストック素材サービスもありますので、探してみましょう。
参考までにですが、私としては、Adobe Stockがおススメです。
※本記事の情報は記事投稿時点でのものであり、今後変更になる可能性があります。
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