キングコング西野亮廣さんが、新作絵本「みにくいマルコ」内のイラスト3点のデータを、NFTマーケットのOpenSeaに出品しました。
現在(7/17 19:00)の出品状況はこちら。
近年、NFT、ブロックチェーンなどが徐々に普及し始めてきており、今後はコンテンツビジネスとも密接に関わってくることが予想されます。
そうすると、NFTについても、著作権と切っても切れない関係になってくるでしょう。
そこで今回は、そもそもNFTとは何か、今回の西野さんの取り組みの内容、著作権とNFTの関係、などを解説したいと思います。
NFTとは
NFTとは
NFT(Non-Fungible Token)とは、「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」のことです。
・・・といっても、何のことか私も最初は分かりませんでした。
何となく、最近話題の「ブロックチェーン」が関わっているということ、”偽造不可”だから、デジタルデータも普通の絵画などいわゆる「モノ」のようにコピー不可能にする仕組みのことなのかなと思っていました。
多くの方が、同じような認識なのではないでしょうか?
結論から言うと、「ブロックチェーン」が関わっているという事は正しくて、「モノ」のようにコピー不可能にするという事は間違っていました。
以下、ブロックチェーンについて説明するとともに、私の勘違いしていたポイントを共有したいと思います。
ブロックチェーンとは
ブロックチェーンは、「分散型台帳技術」とも言われます。
現在主流となっているネットワーク上の契約や取引などの記録方法は、「中央集権型」と呼ばれています。
サービス提供を行っている会社のサーバーに情報や記録が集中しており、そのサーバーがダウンしたり、ハッキングなどが行われ、システムに支障があった場合は、情報や記録が無くなってしまったり、その内容の信頼が失われたりするリスクがあります。
また、情報や記録が信用できるかどうかは、結局サーバーを運営している会社や団体の信用が必要であり、会社や団体の不正改ざんなどが発覚し信用を失ってしまえば、そのサービスごと信用を失ってしまうでしょう。
一方、ブロックチェーンは「自律分散型」の仕組みです。
ユーザー同士で分散してデータを保有し、事実上消去や改ざんができない状態にすることで、管理者が居なくても情報や記録の信頼性を保つことができます。(詳しい説明は長くなりますのでここでは省きます。)
これにより、大規模なシステムや運用コストをかけなくても、ネットワーク上の契約や取引が安全に行えるようになりました。
信頼性が非常に重要になってくる分野が、通貨発行や金融システム、商取引契約などです。
ビットコインなどの暗号資産にブロックチェーンが使用されている事は有名ですね。
他にも、預金、融資、資産運用など、主に銀行などの金融機関が提供しているサービスを、金融機関無しで行ってしまうというDeFi(分散型金融)や、今回話題に上げているNFTなどでも、バックボーンとして活用されています。
「データそのもの」が本物かどうかは見分けられない
デジタルデータをコピーした場合、原本(最初に作られた本物)と全く同じものがコピーされます。
データそのものを見比べても、そもそも同じものなのですから、コピーと本物の見分けがつくはずがないのです。ある意味すべてが本物と言ってしまってもよいでしょう。
このような性質があるため、デジタルの世界ではモノのように「本物」に希少性が無く、「本物」であることに価値が付きにくい状態になっています。
そのような中、「NFTは1点ものに価値をつけることが出来る、つまり、ブロックチェーンを使えば、本物とコピーを見分けることが出来る」と、多くの方が誤解しているのではないかと思いますが、それは違います。
そもそも、画像データ(jpgやpngなど)や音楽データ(aacやwavなど)そのものに関しては、ブロックチェーン上に書き込まれません。
書き込まれるのは、例えばAという画像データのオーナーはBさん(厳密にはデジタルウォレットのアドレス)である、という、権利等に関する紐づけ情報だけです。
したがって、ブロックチェーンを使っても、複数存在する全く同じデジタルデータのうち、本物がどれかというのを見分けるという魔法のようなことはできませんし、不正コピーを防止する目的にも使えません。
NFTにおいてブロックチェーンを使うメリットは、コンテンツが本物かどうか見分ける事ではなく、所有権の売買やライセンスの許諾等、契約に関するやり取りに関しての利便性や自由度が飛躍的に向上する、ということになります。
西野さんがNFTマーケットに出品した目的
出品概要
7/14~7/31までの期間、新作絵本「みにくいマルコ」内のイラスト3点のデータが、NFTマーケットであるOpenSeaにて、オークション形式で販売されています。
先ほど述べた通り、データそのものは簡単にコピーできてしまうので、本質的には、以下の権利の販売になります。
NFT購入者は、「みにくいマルコ公式サイト」に画像データのオーナーとして表示され、ご自身のWEBページなどに購入したNFTの画像を展示することができます。
OpenSea MARCO #14『えんとつ町の夜』- Chimney Town at Night 【NFT詳細】より
「オーナー」が若干曖昧な表現だと思いました。
「所有者」という表現を避けているのは、法律上の”所有”は、物理的に存在する「モノ」に対しての概念であって、データの所有権というのが明確でないためと(勝手ですが)思いました。
そのため、より正確に言い換えると、対象の画像データのオーナーと名乗る権利+WEBページ上に対象画像を表示する権利の販売、というのが、今回の販売内容と考えてよさそうです。
以下の記載がある通り、著作権に関しては販売対象ではないため、改変や不必要なコピー、画像を使ってグッズを作って販売・・・などの行為は、認められていないと考えたほうが良いでしょう。
本NFTの購入により、購入者はNFTのオーナーになりますが、それ以外の著作権や商標権、その他知的財産権は譲渡されません。
OpenSea MARCO #14『えんとつ町の夜』- Chimney Town at Night 【NFT詳細】より
著作権自体は譲渡されないものの、「オーナー」になることで、コレクター心やファンとしての純粋な満足感を得る事以外にも、落札者がWEBサイト等を運営する方や、その他ビジネスを行っている方であった場合、公式サイトの後ろだて付きで表示すれば、その画像を見てみたい、という充分な集客効果が見込めるため、経済的なリターンも期待できるのではないでしょうか。
また、その効果が無にならないうちは、無価値がなってしまうということは無く、同様の権利を他の方に販売することによって利益を得ることも可能となります。
西野さんが期待していること
なぜ、西野さんはNFTマーケットに作品の出品を行ったのかについては、「西野亮廣エンタメ研究所」7月15日放送、「キンコン西野がNFTに参戦した2つの理由」で語られています。
僭越ながら要約すると、
・絵本は販売部数が少ないマーケットなので印税も少なく、絵本作家で食べていける人は非常に少ない。絵本作家の収益源を本の印税以外でも作りたい。
・表現者にとって今後必須のツールになってくるであろう、ブロックチェーン、NFTなど新しい仕組みを広めて時代を進めたい。
という2つの理由からのようです。
西野さんは今やビジネス界隈でも注目度が抜群ですから、彼の目論見通り、今回の出品はNFTについて幅広い分野の方々が考えるきっかけになったのではないかと思います。
実際の購入手順
実際に購入するとなると、以下のような準備が必要です。
・Coincheckなどの暗号資産取引所等でETH(イーサリアム)を購入
・Metamask(デジタルウォレットの一つ)を用意
・暗号資産取引所からMetamaskに送金
・OpenSeaとMetamaskを連携
・ETHをWETHにスワップ
暗号資産への投資、DeFiやNFT、ブロックチェーンゲーム等を経験された方なら、難は無いと思うのですが、そのような方は全体からするとまだまだ少なく、殆どの方が「????」となっているのではないかと思います。
いくらNFTに可能性があると言っても、普及していくには我々ユーザーがこういった手順に慣れ親しんでいる必要があると思いますので、今後機会があれば、手順などについて紹介できればと考えています。
NFTと著作権
NFTで著作権ごと渡してしまうパターンは、あまり見たことはありませんが、最近になって隆盛してきた分野であり、著作権法がまだ追いつけていない部分があります。
ここでは、比較的今のNFTの活用方法と似ている分野、美術の著作権を例に、私の個人的解釈も多々交えますが、留意点を述べたいと思います。
NFTを購入したからと言って著作権が手に入るわけではない
NFTの購入条件にもよりますが、「NFT購入者に著作権を譲渡します」と明示されていない限り、NFTを買ったところで、その作品の著作権を手に入れることはできません。
そのため、購入者だからといって、その内容を権利者に無断で改変したり、コピーして不特定多数に渡したり、Tシャツやマグカップにプリントして販売したり、インターネット上に公開したりすると、著作権侵害となります。
そのような行為を行う場合は、権利者に許可を得る必要があります。
「みにくいマルコ」の例だと、著作権が譲渡されるわけではない、と断りを入れたうえで、WEBサイト上の公開に関しては、NFT購入者が行ってよい、と明示されているため、「無断で公開」にはあたらず、著作権者から購入者への許諾が行われているものと考えて良いでしょう。
それ以外の利用方法については、やはり著作権が譲渡されるわけではないため、権利者に確認が必要となります。
「所有者」に許されている特典が活用できない可能性
絵画などの「美術の著作物」においては、著作権者に許可を取らなくても、その「原作品」を購入したり、譲り受けたりした「所有者」であれば、公に展示を行ってもよい、という例外的な取り決めがあります。(美術の著作物等の原作品の所有者による展示)
ただし、これはNFTにおいては適用されない可能性が高いです。
まず、「原作品」とは、絵画であれば描かれた絵画そのもののことであり、写真やデジタルデータであれば、紙などに(大量生産ようのコピーではなく、オリジナルとして)プリントされたもののことを言います。要するに、「原作品」=「モノ」であり、データの状態であれば「原作品」扱いになりません。
また、法律上の”所有”は、物理的に存在する「モノ」に対しての概念であって、「データ」の所有権というのは明確ではありませんので、NFT購入者は「所有者」とは言えないかもしれません。
NFT購入者は、「所有者」ではないのに加え、仮に「所有者」として認められたとしても、「原作品」の所有者ではないため、展示会を開いて集客する等のメリットを得ることができない可能性が高いのです。
また、さらに仮に「原作品の所有者」として認められたとしても、「原作品の所有者」が著作権者に許可を得ることなく行ってよいのは、「展示」そのもの、または、「展示の紹介をするためのインターネット上での公開や、パンフレットなどへのプリント」だけですので、「展示」を伴わないインターネット上への公開などは認められません。
いずれにしても、単にNFTを購入しただけでは、購入者に何のメリットも発生しない可能性が高いのです。
購入者は何ができるのか、明示と確認が必要
一方、購入者に対しての特典が明示されていれば、これが契約書のような役割を果たし、NFT購入者にメリットを発生させることができるでしょう。
※「みにくいマルコ」の例では、しっかりと特典が明示されています。
法律で取り決めがない分、出品者はNFT購入者の特典が何なのかを明示し、購入を検討している方も、特典の内容をしっかり確認しておくことが必須と言えるでしょう。
まとめ
今回は、そもそもNFTとは何か、キングコング西野さんのNFTマーケット出品の件についての解説、著作権とNFTの関係、などを解説しました。
今後、NFTと著作権は切っても切れない関係に発展していくでしょう。
記事を書きながら改めてそう実感しました。
以上、この記事が少しでもあなたの参考になったのであれば幸いです。
※記載の情報は記事投稿時点でのものであり、今後変更になる可能性があります。
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